日本分析化学会 分析化学討論会「展望とトピックス」(2007.5)
アルカリ土壌で生育する植物の生育阻害に対するキレート剤の効果
(金沢大院自然)○長谷川 浩、齋藤圭太、奥村真子、牧 輝弥、上田一正
[連絡者:長谷川 浩,電話:076-234-4792]
植物の生長には鉄の吸収が必須であるが、pHの高いアルカリ性土壌では、鉄が水和酸化鉄として難溶性になるため、植物は鉄不足で成長不良になることが知られている。このようなアルカリ性土壌における鉄欠乏を解消し、鉄の吸収率を向上させる手法として、ヨーロッパ等における農耕ではEDTAの散布が実施されてきた。EDTA等のキレート剤は、難溶性の酸化鉄化合物を可溶性のキレート鉄化合物に変換するため、植物は鉄を吸収しやすくなる(図参照)。EDTAは、一般に洗剤や化粧品に使用されるなど、人体に対して直接的に大きな毒性を示すものではない。しかしながら、EDTAは極めて安定であることから、土壌や地下水に残留し、土壌粒子に含まれる金属化合物を溶かしてしまうなど、自然の循環過程を乱す可能性が報告されている。
本研究では、環境中で比較的短期間で分解するアミノ酸を主骨格にしたアミノカルボン酸型キレート配位子4種を用いて、室内培養実験においてアルカリ性条件下のかいわれ大根の成長に及ぼす影響を検討した。キレート剤を無添加の場合、アルカリ性条件ではかいわれ大根の発芽や成長は著しく低下するが、生分解性キレート剤を添加した場合はアルカリ性条件においても中性条件とほぼ同レベルの発芽率、成長率を維持できることが分かった。培地に放射性トレーサー55Feを添加して鉄の吸収量を測定した結果、アルカリ性条件で生育するかいわれ大根の鉄吸収がキレート剤の存在により促進されることが確認できた。一連の実験において、生分解性キレート剤は、鉄吸収を促進する効果に関して、EDTAと同レベルであった。その他の指標として、例えば、国内で開発されたHIDS(日本触媒)は、生分解性試験において約80%が24時間以内に水と二酸化炭素に分解し、魚毒性が極めて低いなど実用に必要なデータが揃いつつある。一般の製品に使用されるキレート剤の多くはEDTAであるが、環境への残留が深刻であるならば、環境対応材料として生分解性キレート剤に主役が回ってくるかもしれない。